新入社員研修におけるトランジションとは?

 ゴールデンウィークも明け、しばらく経ちました。

 新入社員も配属された職場では、4月とはまた違う変化を感じられている方もいるでしょう。

 4月は契約している教育機関経由で、大手企業の新入社員研修を担当しました。一緒に時間を過ごした方々が、スムーズに職場に溶け込み、輝かしいキャリアをスタートしてもらえることを想像しています。

 今日のブログでは、NLPフィールドでも大切にしているテーマの一つである「トランジション」を、学生から社会人になるプロセスを例に、共有していきたいと考えています。

トランジションとは?

 日本語にすると「転機」や「節目」と言われることが多いようです。

 「トランジション〜人生の転機を活かすために」(ウィリアム・ブリッジズ著)によると、

「新しい街への転居や新しい仕事への転職、新しい子供の誕生や父親の死去」などの外的な出来事や状況が変わる「変化」ではなく、「心理的に変わる」ことである。(略)

 それはなぜかというと、

「トランジションが起こらなければ、
 変化は『受け取られない』ので機能しないのだ。」

 

 私たちは日々、何かしらの出来事に対応しています。多くの場合は、現状の延長線上や予測できる範囲なので、問題になっても能力や行動を変化させることで解決できるものが多くあります。そのため、認識の前提となる信念や価値観まで見直すことがありません。

 しかし、「トランジション」とは、自己認識の変容(トランスフォーメーション)が生じる場合のことを呼びます。その際には、自己認識を支える価値や信念も同時に変容させていくことになります。

 この著書では、「トランジション」における3ステップが、とてもわかりやすく書かれています。

それは、①終わり、②ニュートラルゾーン(空白・喪失)、③新たな始まりです。

 例えるならば、こちらの川岸から、あちらの川岸に移動するときに、荒れた川の流れから何かを学びながら、進んでいくことで、到達したときに以前とは違う自分と世界の見方が得られるような感覚です。

 この旅の途中で、これまでの価値や信念を手放し(アンラーン)、再構築をしていくことになります。

 ただし、自己認識は、先ほどの出来事や状況と関係しているため、外的な「きっかけ」によって変化し始めることが多いのも事実です。

 特に、未知なる領域に入ったときです。これまでのパターンが通用せず、予測が不可能となり、結果として、不確実性が増します。

 そのときに、これまで頼りにしてきた自己認識、価値や信念では望む結果は得られないことに気づきます。

 この著書から改めて、どのように、価値や信念を手放していくのか、そして、新たな始まりまでのニュートラルゾーンをどのように過ごすのか、外側に目を向け頼るのではなく、内面に目を向けることの重要性が理解できます。

学生から社会人になることへのトランジション

 トランジションは、成人発達理論と重なるところがあります。

 成人発達理論では、人の心をシステムと捉えます。(NLPも同様です。)

 安定した(システム)の状態は、未知の領域に入る時に情報を秩序立てることができずにバランスを崩します。
 すると、情報経路は混乱し、整理できないなかで、外的な状況や内的な状態を安定させようと波打っていきます。

 その際に、これまでの固定概念やパターンが破られ、その裂け目で新たな学習が生じ、次のステージへを展開してきます。

 成人発達理論とは、そのシステムの崩壊と安定の循環をモデル化したものになります。

 成人発達理論を提唱するひとりに、ハーバード大学のロバート・ギーガン教授の提唱する「成長の変容モデル」の一部を次にご紹介します。
 (主なものを抜粋しています)
 

第2ステージ:利己的段階 個人的な身体的な欲求に駆り立てられ、それを満たすことを優先します。「自分のことばかり考えている」段階。自分の世界観を優先します。

 このステージでは、他人の欲求や期待への配慮を学び、よりスケールの大きな考え方を優先することが重要です。
第3ステージ:反応的段階 個人的な欲求は持ちますが、それに捉われることなく他者の欲求に配慮できます。周囲との関わりによって自己を再定義します。

 つながりのある人々や物事の責任を負うことができるようになります。社会に適応する中で学んだ正しいことや間違ったことを照らし合わせて自分を作り上げます。自己は外部によって定義されます。(例えば、所属している会社や役職等)

 このステージでは、周囲との関係性や外的な基準、評価から自分を解放し、内的な基準や評価を構築することです。
第4ステージ:創造的段階 内面の規律、価値基準やビジョンを発見し、それに従って生きる段階。

 周囲との結びつきや要求に限度や限界を設け、仕事などの実績から自分を区別し、自立し、個性化し、独立した上で、関係性を結ぶことができます。そのため、他者との価値観の相違を認識し、尊重することができます。

 このステージでは、他者に「力を与える」(power with)を学ぶことが重要となります。
第5ステージ:統合段階 自己の多様性に気づき、複雑なシステムの中で全ての生を尊重できる状態。

 それまで抵抗していたり、拒絶していた対象と再び繋がりを持ち、正しいや間違いを超えた正反対の要素が存在するという気づきに留まります。

 創造的な自己表現に焦点をおくよりも、志を同じくする仲間と呼応して全体の利益のために行動します。継続的な対話と合意形成を中心に置きます。

 ここでは、奉仕する心や持続的に相互依存するチームやコミュニティ形成などが重要です。
【成長と変容のモデル】

 こうした心理的、精神的な発達は、スピードの速い外的な変化とは異なり、じっくりと時間をかけて進んでいきます。その際には、利き腕を変えるときのようにパフォーマンスが落ちたり、ストレスが溜まったりすることもあるので心しておく必要があります。(まれに、急激な覚醒によってジャンプしたような変化を起こすこともあります。)

 NLPフィールド主催でのワークショップは、主に第3から第4ステージ(NLPプラクティショナーコース)および第4ステージから第5ステージの入口まで(スポンサーシップNLPコース)を安心・安全な場で移行できるようにしています。

 今回の新入社員研修では、「第2ステージから第3ステージ」への移行を支援するものになります。

 さて、ここからは、今回の新入社員研修を体験したことを通して、学生から社会人へと移行する中で、私の中で気づいたことや大切に感じたことをつらつらと書いていきます。

①ビジネス社会に入っていくプロセスは、就職活動から始まっています。


 新入社員前は、学校における知識や能力がどれだけあるのか、特に、友人という限られた関係性や年齢の幅も多様性もあまり高くない状態で、自己を定義しています。

 その状態から就職活動において、「採用と選抜」というプロセスで自分自身をプレゼンテーションする機会を持つことになります。

 少し話はそれますが、あなたは、就職活動前から「自分自身のビジョンや、何を大切にし、社会でどんなことを実現していきたいか?」ということを考えていたでしょうか?

 私は、正直にいうと、就職活動というものがなければ、この問いを立てることはなかったように思います。この探求が非常に新鮮であり、これまで流されてなんとなく生きている感覚から、自分が本気で自分の人生を選択する、という感覚を得ました。
 その時に参考になった本:自分のための人生〜1日1日を大事に生きる生活術
             (ウェイン・W・ダイアー  三笠書房)

 その結果、この就職活動というよりも、この「トランジション」のプロセスの重要性を感じて、採用のエントリーをサポートする人材系のベンチャー企業に就職した経緯があります。


 就職活動の「採用と選抜」という段階が、これまでぼんやりとしていた「社会における自己」というものの萌芽となります。そして、この時期が、入社への準備期間(レディネス)として機能していきます。
 (現在は、インターンシップ制度として、より体験的に情報を獲得する機会が増えてきているようです。)

最近では、この大学生活から社会人へと移行する研究もされています。
 →「活躍する組織人の探求」(東京大学出版社、中原淳/溝上慎一編)

②新入社員研修という「通過儀礼」

 今回の新入社員研修でも受講者は真摯に取り組んでいます。しかし、すでにビジネスとして力を発揮できる状態の人とそうでない人や、望む企業に入ってモチベーションが高い人と望んでいた企業ではなく、社会人になるという意識がまだ固まっていない人など、さまざまな温度感があります。

 新入社員研修は、この準備段階を経てはいるけれども「未だ脆い社会的な自己」について、第3ステージへと移行していく「通過儀礼」的なものになっていきます。


 しかし、あなたもご存知のように、数日の新入社員研修で全てを変化させることは無理な話です。

 現実的には「きっかけ」づくりであり、今後のキャリア形成に注意の焦点をどこに定めていくのか、どんな信念や行動規範を前提とするのか、などを理解することや、学んだ知識を効果的スキルとして実践することになります。

 しかし、新入社員研修を内製するときなどは、仕事で役立つスキルを習得するという側面ばかりに意識が向けられ、新入社員がビジネス世界へと移行するための機能をいかに持たせられるかという点が省略されてしまうことがあります。

 また、新入社員の皆様は、このときには、外的な情報を入力することや、規律の中で、どこまでなら自由が許されるのかを探っている時期でもあります。

 本当の意味でのトランジションは、よく言われるリアリティショックが起こった時からが本格的に始まります。その瞬間は、自分の力が社会に通用しないという自覚に至ったときです。

 そのときのために、この「通過儀礼」を通して、どのように成果の創出と異質な他者との関係性や信頼性を構築するかを体験して、ビジネス環境で生きるための「社会化な自己」の強化していくことや、研修のプロセスでつながった同期を中心にして、研修を運営する人事や先輩諸氏との心理的、精神的な支援関係が育っていると、メンタル面や離職などを未然に防ぐことができ、さらに言えば、将来のエンゲージメントが高まる素地がつくられます。

「通過儀礼」とは、そこで何かが明確に変わるという文脈(意味)を形成するものです。1年ではお正月(初詣)、より大きな枠組みでは、七・五・三、成人式、入学式や卒業式などにあたります。

「トランジション」によると、①終わり、の期間をしっかりと振り返ることや嘆く(悲しむ)ことも重要であると言われています。
 企業では、ここまでは行われないため、今回はこちらにメモ程度に載せておきますが、この「人生の中で何かが『終わり』になることにピリオドを打てないと連続的な意識は区別ができず、その意識を引きずることが多くなります。(「変わりたいけど、かわりたくない」という動揺が無意識に生じてきます)

 このことは新入社員に限らず、人生やキャリアのなかでの実際のトランジションの場面では、次のステージにばかり意識が向くために、このプロセスが見落とされがちになるのは納得できます。

(コーチングなどの未来志向の場合の関係性でも、トランジションをテーマにしたものの時には、こうしたプロセスを取り扱うことはとても重要になります。)
 

「能力・行動変容」か「マインドセット(心的態度)」か

「通過儀礼」の一般的な定義を先ほど載せましたが現実的には、人によって、いろいろな捉え方があると思います。

 例えば、「通過」からは、「入り口」と「出口」が連想されます。
「何を、どのように変容させるのか?」ということは、それぞれの企業によって異なります。

 新入社員研修は、学生からビジネス社会へとまさに未知の世界に入っていきます。そこでは、生活のルールや習慣、周りから求められる期待が以前の世界とは完全に異なります。(改めて確認すると、「成長の変容モデル」では、第2ステージから第3ステージへと橋渡しすることになります。)


 昔、企業が時間や人員に余裕があったころは、座学で理論的なことを学び、ディスカッションすることが多かったようですが、現在では、上司の教育面の時間を削除するために(業務に集中し、生産性を高めるために)、即戦的かつ基礎的なスキルというものを研修では求められてくるようになりました。

 いわゆるビジネスマナー、コミュニケーションスキルや仕事の基本(報連相、段取り力等)です。

 このように講座の内容も、仕事の成果を即時に出すために能力やパフォーマンス系のスキルが重視されています。

 

 ここで私が提携している人材教育会社が大変優れているのは、このスキルの習得できるプログラムながらも、マインドセット(社会人としての態度や心構えの形成)に重きを置いているところです。

 実際に現場に即したシミュレーションを実践する中で、自分の志向性(習慣的な思考、行動様式)や嗜好性(好き嫌い等)を前提とした自らだけに通用した世界観では通用しないことを体験し、顧客の価値を推測したり、組織としての規律や目的を判断軸のしたり、チームとして共有する世界を前提とした志向性へと前提や価値を何度も何度も繰り返して、経験、確認していきます。受講者の皆様にも大変腹落ちする内容になっています。

 このように、工夫すれば、スキル向上とマインドセットは同時に身につけることが可能となります。

④「マナー研修」を例にしたスキルとトランジションのベースづくり

 具体例を挙げてみます。先ほどのビジネス・シミュレーションではなく、ここでは「マナー研修」を取り上げます。

「マナー研修」というとひと昔前は、型を正確に覚え、実行することが求められていました。
 テレビでも鬼のような教官がビシビシと鍛えていくような内容が放送されていたことを思い出します。(今では見なくなりましたが、マナー研修がどういうものかを強烈に印象づけました。)

 昔から何かを学ぶときに、「失敗したときの痛み」を想定・体験させ、それを事前に防ぐために厳しく指導する、という苦痛回避的な方法も取られていました。しかし、この方法は、何かを覚えるとともに恐怖や苦痛がアンカリングされてしまいます。

「学習」には、かならず「学習を超えた学習」が為されているため、昨今の研修では、「学習を超えた学習」にどんな意図を持たせれば良いのかは必ず検討されています。
 誰しも「やれ」といって「やる」のは、その場を凌ぐためであり、持続的な効果を出すためには、本人が意味を納得することが重要です。意味は、それに対する価値を生じさせ、それが継続した動機へと転換していくからです。

「マナー研修」についても同様で、例えば「マナーとは、相手に敬意を示すコミュニケーション」の一環であり、それが、まだ外見でしか評価されない関係においては、重要な意味を持つことが理解されないと、たんなる形式にとどまってしまいます。

 マナーをコミュニケーションとして捉えることで、自分から発信する(おしゃれのようなも)のではなく、他者との良好な関係を築くためのものと再定義していきます。
 とくにビジネスで必要な信頼関係を築く、即効性の高い方法だということがわかると、「正しく行うことをやらされる」という前提を超えて、今の状況で何を選択すればいいのかの基軸が生まれてきます

 特に、このマナーは、ステージ2からステージ3への移行においても「学習を超えた学習」として役立ちます。それは、「マナーは自分らしさを捨てる」という思い込みを手放し、「自分の欲求を理解しながらも、他者への期待や配慮」を育てる方法の一つとなるからです。

 それは、仕事を介して人間関係を作り、新たな環境のなかでより良く他者と生きる方法を学ぶことにも通じることになります。また、ある面の自分らしさを抑えながら、別に自分を表現することによって、自らを社会化する方法を学ぶことにもなります。

「職場」こそが人間的な成長や発達を遂げる場

 以前、人事で教育担当をしていた頃の私の密かなミッションが、これでした。

 人生の大半を過ごす場こそが、人が成長や発達する場でなければならない。

 しかし、短期的な成果を求められたり、忙しい職場の中では、難易度の高いテーマだったように思います。

 最近は、こうした想いを持った方は、人事に限らず自分の部下を育成する立場の方やリーダーの方が持っていることを知って、とても嬉しく思っています。

 新しい職場で新入社員を迎えるリーダーや先輩方々も、彼らが入ってくることで関係性の質が変化し、それに伴って成長し、人間として発達する機会になるでしょう。


 私の好きな著書の一つである「結局うまくいくのは、礼儀正しい人である」(P・M・フォルニ著 ディスカバー・トウェンティーワン刊)というなかに、

「人は人の中で生きることで磨かれていく」

という言葉があります。

 短期的な成果を優先するあまり、私たちの意識の焦点は「結果を出すためのスキルやパフォーマンス」を高めるためのノウハウに向いてしまいます。
 しかし、大事な視点は、冒頭に申し上げたように、未知の領域に入った脆弱で、未だ社会化されていないアイデンティティの変容をどのように支援するのかということです。

 それは、制度などのハード面を揃える以上に、日常の人間関係において、育成や発達という観点がどれほど含まれているか、ということにもつながります。

 全ての人に何かしらのトランジションやトランスフォーメーション(変容)のプロセスは訪れます。私たちは、これをNext stageと呼んでいます。

 トランジションを歩む人は、自己への信頼が揺らぐことになります。

 このときに、すでにトランジションを終えた人や周りで関係している人が、その育成や発達をあたたかく見守り、次のステージの兆候がみえたときに、必要な言葉をかけたり(フィードバック)したり[発達支援]、うまくいかないときに心理的および精神的な支援を行なうことができれば、このプロセスを逸脱することなく、やりとげることができるようになります。

 このように、その人自身が自分のニーズや意図から生きることができるようにする関わり方を共に創ることを、スポンサーシップと呼びます。


 私たちは、コーチングワークショップで、そのプロセスを支えています。ご興味にある方は、リンク先をご覧の上、ご連絡してください。また、企業研修をご要望の方はこちらをご覧ください。


 次回は、職場で大切なフィードバックについて、お話しします。

この記事を書いた人

nlpfield

株式会社NLPフィールドです。
人生におけるNext Stageにむけて、NLPを中心としたコーチング・アプローチで支援をしています。ご自身の人生を心豊かに生きることを基点として、周囲の人々に共感し、社会に貢献できるよう研修やコーチングを提供しています。
https://nlpfield.jp